CASE1-(4)

「もう一度教えてやる。プロファイリングとは、統計的な経験、データ、心理学をもちいて人間の行動の法則性、その人物像などを導き出すものなんだ」 


「それはさっき聞いたからわかったけどさあ……」


 百次郎くんは、ふうぅぅぅぅと今日一番大きな溜息をついた。


「プロファイリングの知識がまったく無いお前に、この俺様が簡単な例をつかって教えてやるからありがたく思えよ」


「うん……」


「……たとえば、ひとりの女がいたとする。仮にA子としよう。そいつの職業は保健室の先生だった。ここで俺様はプロファイリングする。……すると、A子は童貞好きの淫乱女だってことがわかるんだ」


 思わず鼻水が出た。


「ち、違うよ! それこそプロファイリングじゃなくて、ただの偏見だよ! 百次郎くんが保健室の先生に対して抱いてる勝手なイメージじゃないか!」

 

「わからないやつだな、てめえは!」


 百次郎くんはペロペロキャンディでべたべたになった手で僕を指さして、そう言った。人を指さすな、このデブ!


「仕方がねえ、もうひとつ例を出そう。……ひとりの女がいたとする。仮にB子としよう。B子は自らすすんで当直をするナースだったとする。ということは、そのB子は……」


「夜な夜な診察と称して患者の性処理をしてあげる淫乱女だとでも言いたいの?」


 僕は溜息交じりで口を挟んだ。


 百次郎くんは愕然とした。怯えるような目で僕を見る。


「お、お前もプロファイリングができるのか!?」


「ちがうよ。こんなものはプロファイリングでもなんでもないってさっきから言ってるでしょ。ただの偏見だよ」


「なんだと! 実際に、そういう保健室の先生やナースに関する文献もたくさんあるし、コミック化や映像化もされていたり……」


「官能小説とエロ漫画とAVでしょ。それを信じちゃってるの?」


「でも、あれはドキュメントだぞ。つまりノンフィクションだ」


「違うよ! それに、さっきのだって、イソジンを使ってるのは風俗店だけだと百次郎くんが思い込んでるだけだよぉ。それはイソジンに対して百次郎くんが勝手に抱いているイメージであって、プロファイリングでもなんでもないんだよ」


「なんだと! じゃあ今度は家庭教師の女を例にしてプロファイリングしてみせようじゃねえか!」


「それこそ『いけない! ルナ先生』の影響でしょ。くだらない」


「てめえにルナ先生のなにがわかる!!」


 百次郎くんは、ペロペロキャンディを地面に叩きつけ、人差し指と中指、さらには薬指を立てると、僕の両目めがけて思いっきり目潰しを放ってきた。大山倍達総帥が得意としていた三本貫手だ。


 しかしながら、百次郎くんの攻撃はデブゆえにあまりにもスローすぎた。僕は上半身を後ろにそらす、いわゆるスウェーバックであっさりとかわした。


 それがいけなかったのか、更に怒りの温度をあげる百次郎くん。今度は僕の胸ぐらを掴んできた。僕の体は簡単に持ち上がってしまった。


「プロファイリングだけに飽き足らず、大巨匠・上村純子先生の作品をも馬鹿にしやがって! あれは、家庭教師たるもの決して本番をさせないことが生徒の成績を上げるコツであるということを分かりやすく説いた家庭教師のための指南書であり、バイブルなんだ!! それを、さっきからわけのわからねえことばかり言いやがって!!」


 怒りの形相で捲し立ててくる百次郎くん。


 足をバタバタさせたけど、振りほどけない。


「く、くるしいよ、離してよ。馬鹿にはしてないってば。やるならちゃんとプロファイリングしてって言ってるだけだよぉ」


「やってるじゃねえか!」


「やってないよ! そんなので事件解決の手伝いしてるなんてインチキだよ!」


「……そこまで言うんだったら、てめえの母親のことを更にプロファイリングしてやろうじゃねえか」


 ようやく百次郎くんは僕の胸ぐらから手を離してくれた。


「やれるもんならやってみてよ!」


 僕は咳き込みながらも挑発してやった。


「後で吠え面かくなよ」


 そう言ってニヤリと笑うと、百次郎くんは僕の顔をジッと見つめてきた。次に僕の全身をなめるように見てきた。そしてあごに手を当てながら考えこんだ。


 無駄な時間のように感じたけど、待ってあげることにした。


 しばらくすると百次郎くんは語り始めた。


「まず……てめえはなかなか努力家だ。宿題をちゃんとやってくるし、勉強もできるからな。じつは、これは統計的に見て、母子家庭では珍しいことなんだ。……おそらくお前の母親の影響だろうなぁ。つまりお前の母親も勤勉家であり努力家ってわけだ。これもビッチには珍しいことだ」


 なんか、それらしいことを言ってきた。


 ……いや、だまされるもんか。


「それがどうしたのさ」


「おや、心外だなぁ。お前の母親を褒めてるんだぜぇ。お前の母親ほど勤勉家なビッチはいねえぞぉ」


「なにを根拠にそんなこと……」


「もちろん仕事ぶりだよ。なんたって、お前の母親のプレイ内容でもっとも定評のある、あのマット洗い。あれは一朝一夕で身に付くものじゃないぜぇ。練達の士と呼ぶに相応しい業だ。修行の賜物だ」


「なにが言いたいのさ!」


「ふふふふ……お前の家の風呂場には、あの巨大なエアマットがあるはずだ。もちろんお前の母親がマット洗いの練習に使っているものだ。ふふふふ、結局のところ何が言いたいか……。ようするに、あのマット洗いの練習相手は誰なのか、ということだ。もう答えは出ているよなぁ。母子家庭だもんなぁ。家には母親とお前しか住んでいないんだもんなぁ。……つまり、お前ってことだ!! わはははは、欲求不満も解消できて技術も磨けて一石二鳥ってわけだ! どうだ、ここまでは完璧に当たっているだろう? ぐうの音も出ないだろう? この変態母子め!!」


「何一つ当たってないよ」


「ちくしょう!!」


「ちくしょうじゃないよ。適当なことばかり言って。僕の家にエアマットなんてあるわけないでしょ」


「ぐぐぐ」


「それになんだい。定評って。誰に聞いたのさ。それともママのプレイを見てきたとでもいうの? なにが練達の士だよ。聞いててこっちが恥ずかしくなったよ。そもそも、さっき僕のママに会ったことないって言ってたじゃないか。……これで完全に確信したね。百次郎くんのプロファイリングなんて全部嘘っぱち。ただの思いつきだよ」


「ちがう! すべては蓄積されたデータに基づいての発言だ!」


「蓄積するほどのデータなんてないくせに! 自分の家にエアマットなんて置いてる風俗嬢なんて地球上に一人もいないよ!!」


「決めつけるな!」


「それに、僕を練習台に使ってるだって? 百次郎くんの変態!!」


「うるせえ! 俺様のプロファイリングに文句があるなら死にやがれ!」


 そう言って、百次郎くんは僕の左足を掴んできた。そしてクラッチしたまま自らきりもみ状態で倒れこんできた。


 いわゆる藤波のドラゴンスクリュー。


 だけど、僕の足は、手汗でびしょびしょの百次郎くんの手からスルッと抜けた。当然ながら、受け身なんてできやしない百次郎くんは地面にまともに腰を強打。


 それから百次郎くんはどれだけの時間、泣き続けただろうか。


 結果的に、僕の「いたいのいたいの飛んでけ」によって事なきを得た……って言っていいのかな。どういうわけか、駄目もとで行った、単なるおまじないで泣き止んだんだ。百次郎くんは、おまじない一つで本当に痛みが消えたと思っている。


 お前はヒーラーだったのか!?


 なんて戯言までほざく始末。ませているんだか、幼いんだか……。まぁ、とにかく百次郎くんは大人しくなった。


「あのぉ、先生、いいですか」


 突如、僕たちのくだらないやりとりに割って入ってきた大人の声 。

 

 

CASE1-(3)へ   △このページの先頭へ   CASE1-(5)へ

概要 | プライバシーポリシー | サイトマップ
copyright © 2011 デブファイル all rights reserved.