CASE1-(5)

「お取り込み中、申し訳ないんですが、そろそろお仕事のほうをお願いしたいと思いまして」


 僕たちは声のほうを同時に見た。


 無精ひげ、よれよれのワイシャツ、何日も洗ってなさそうな髪の毛、そしてその上にのっかってるハンチング帽。ドラマなどでよく見る刑事さんのイメージそのものだ。


 そういえば、ここは殺人事件現場だった。


 あ、今この刑事さん、仕事って言ったよね。百次郎くんが警察のコンサルタントをやっているというのは、本当だったのか。


 ……。


 …………あれ?


 この人は!


「おお、警部補じゃねえか。そうだそうだ、仕事だったな。というわけだ、ユウキ。お前の相手は後でしてやるよ。……ん? おい、どうした?」


「総太おじさん!」


 思わず大きな声を出した。


「おお、ユウキじゃないか。ずいぶん久しぶりだな。相変わらず小さいなあ。ちゃんと牛乳飲んでるか?」


 総太おじさんは僕の頭を乱暴に撫でてきた。僕と会うと必ずこうしてくる。


 そうなんだ。


 総太おじさん、本名は巽総太。僕のママの弟。ごらんのとおり、刑事なんだ。


「おじさん……?」


 不思議そうに、僕と総太おじさんの顔を交互に見る百次郎くん。そして、ひとつの結論を導き出したのか、納得したように頷くと、得意そうな顔で言った。


「ああ、警部補はユウキのパトロンだったんだな。ペドフィリアってやつだな。見た瞬間にわかったよ。……もちろんプロファイリングで」


 付け足したようにプロファイリングを強調してくる。


 この人は根本的にプロファイリングというものを知らないんだな。
 僕は無視して総太おじさんとのことを説明することにした。


「違うよ、僕のママのお兄さん。伯父ってこと。言ってなかったけ、僕の伯父さんが刑事をやってるって」


「それよりユウキ、どうしてここに。ここは事件現場だぞ、子どもが来るようなところじゃないぞ」


 ちょっと説教口調になる総太おじさん。


 制するようにように百次郎くんが言った。


「俺様が連れてきたんだ。俺様のプロファイリングに興味があるようでなあ。それに、ヒーラーでもあるんだ。俺様のアシスタントにしようかな、って思ってるんだ」


「ヒーラー? ……よくわからないが、遊びに来たわけじゃないってことだな。じゃあ、百次郎先生の仕事っぷりを存分に見ていけばいいさ」

 

 百次郎先生って……。今までずっと尊敬していた総太おじさんがそんなことを言うなんて……。


 僕は何かの間違いであってほしいと思い、総太おじさんに聞いてみた。


「総太おじさん、本当に百次郎くんに捜査のお手伝いをしてもらっているの?」


「お手伝いとはなんだ。先生は立派なコンサルタントだぞ」


 きっと総太おじさんは騙されているんだ。どうにかして、百次郎くんのプロファイリングが偽物だということを教えてあげないと!


「ダメだよ。百次郎くんをあてにしちゃ。百次郎くん、本当はプロファイラーでもなんでもないんだから」


「ははは。どうしたんだ、ユウキ。急に大仁田の話なんかして」


「は?」


「おいいいいい! 今更なにを言ってやがるんだ、このダメ警部補はぁぁぁぁ!!」


 絶叫し、頭を抱え込む百次郎くん。


 そんな百次郎くんをきょとんとした顔で見る総太おじさん。


 この人、馬鹿なの?


 ……まあ、僕もさっき同じ間違いをしたけど。


「なに言ってるのさ、プロファイラーだよ。総太おじさん、もしかして分かってないの?」


「はっはっはっは、だからノーロープ有刺鉄線電流爆破超大型時限爆弾デスマッチの人が使う技だろ?」


「頭がおかしいのか、てめえの伯父はよおぉぉぉ!! このスットコドッコイな警部補は、俺様がサンダーファイヤーパワーボムを使えるから警察のコンサルトをやってると思ってやがったのか!!」


「伯父さん! プロファイラーだよ、プ・ロ・ファ・イ・ラー!」


「ん? プロファイラー? ……ああ、プロファイラーのことね。最初からそう言ってくれよ」


 最初っからそう言ってたじゃないか。なんなんだ、この人。


「……とにかく、百次郎くんのプロファイリングなんかに頼っちゃダメだよ。事件の解決なんかできっこないなから」


「ふふふふ」


 不敵に笑う百次郎くん。


「な、なにがおかしいのさ」


「俺様がすでにどれだけの事件を解決したと思ってやがるんだ? どれだけこのヒンデンブルグ町の凶悪犯罪の検挙率が上がったと思ってるんだ? 説明してやれよ、警部補」


「え。そ、そうなの?」


 嘘だ。
 そんなこと信じられない。


「そうだぞ、ユウキ。先生のことを甘く見ないほうがいい。……あれは数ヶ月前のことだった」


 総太おじさんは遠くを見つめ、語りだした。

 

「ある事件の捜査で我々は行き詰っていた。まあ、内容は詳しく言えないが……とにかく心霊捜査でも解決できない怪事件があったんだ」


「ちょ、心霊捜査って……」


 いきなりの総太おじさんの衝撃的な発言に、正直僕は度肝を抜かれた。


 この人……というか、この人を含め、この町の警察は僕が想像している以上に大馬鹿者の集まりなの?


「ちょっと待て。誤解するんじゃないぞ。なにも我々が常に心霊捜査をしていたってわけじゃないぞ。たまたまだ、たまたま。事件の捜査で行き詰っていたから、なにか別な視点で捜査をしなおす必要があるんじゃないか、って思ったんだ。そこで……」


「心霊捜査をしようと思ったの?」


「そうなんだけど、でもあれだぞ。お前が思っているようなインチキくさいやつじゃないぞ。イタコに来てもらったりだとか、チャネリングとか……そういうちゃんとしたやつだ」


 なにひとつ言い訳になっていない。なんなんだ、心霊捜査のちゃんとしたやつ、って。


 怒りを抑えつつ聞いてみた。


「それは、おじさんの独断でやったの?」


「英断と言ってほしいな。まあ、俺が一人で進めたのは事実だ。俺にはその事件の指揮権があったからな」


 どうやら警察全体ではなく、総太おじさん一人が大馬鹿なだけなようだ。ちょっとホッとした。


 だからといって、無視できることじゃない。


「成果は無かったんでしょ?」


「……そりゃ、な」


「税金をなんだと思ってるの? 刑事という仕事をなんだと思ってるの?」


「いや、だから、ちょっとした気の迷いだったんだ……。疲れてたんだ。それだけ追い込まれてたんだよ、俺は。……なぁ、わかるだろ? お前も刑事もののドラマとか好きでよく見てるんだからさ。そういうシーンってよく出てくるだろ」


 一時の気の迷いでイタコに口寄せしてもらうことにするシーンが盛り込まれた刑事ものドラマなんてあるわけないでしょうに。


 僕は総太おじさんを罵倒したかったけど、とにかく話を先に進めることにした。


「……それで?」


「とにかく、そこで出会ったのが先生だ!」


「百次郎くんのこと?」


「そうだ。たまたま、その事件現場に居合わせた先生は、我々刑事には考えもつかないような斬新な推理を披露。見事、その怪事件を解決へと導いてくれたんだ!」


「ふふふふふ。推理ではなく、プロファイリングだけどな」


「ふうん」


「まあ、最初は半信半疑だった者もいたさ。〝なぁにがプロファイリングだ"ってね。だが、その後も俺がアドバイスを求めた事件は、ことごとく解決。いまやお偉いさんですら一目を置いているってわけだ。それにFBIみたいで格好いいって、今じゃみんな先生のプロファイリングに頼りきっているんだ」


 やっぱり大馬鹿は総太おじさん一人じゃなかったようだ。本当にどうなってるんだろう、この町の警察は。もう怒りを通りこして呆れてきた。


「ふふふ。警察はチャネリングよりもプロファイリングを選んだってことだ」


「百次郎くんは黙ってて」


「時代は心霊捜査よりも科学捜査ってことだよ」


 得意気な顔の百次郎くんを見て、なんだか吐き気がしてきた


 それにしても総太おじさんの話は、ある事件とか斬新な推理だとか怪事件だとか、全部あいまいな表現。具体的なことが何一つ出てきやしないじゃないか。聞いて損した。


 わかったことは、ただ一つ。


 この町はもう駄目ってこと。大人になったら絶対に町を出よう。将来できるであろう、愛する家族たちをこんな町に住まわせるわけにはいかない。


「百次郎くん、早いとこ仕事ってのを終わらせてよ。もう帰りたいよ」


 早く家で宿題をしたかった。無性に勉強がしたくなった。いっぱい勉強して、いい大学に入って、立派な会社に入って、こんな町からはさっさと脱出するために。もちろんママには普通の仕事をしてもらうつまり。だから大学は奨学金で。とにかく、そのためにもこんなところでこの駄目な二人を相手にしている時間なんて少しもないんだ。

 

 

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