CASE1-(6)

「ああ、そうだったな。よし、警部補。俺様も家で見たいアニメがあるんだ。とっとと仕事の話をしようか」


「そうですね。……もうご存知かもしれませんが、とりあえずこのヒンデンブルグ三丁目公園で起きた殺人事件のあらましから説明させていただきます」


「うむ」


 急に真面目な顔つきで話しはじめる百次郎くんと総太おじさん。いいぞ。これならすぐに終わりそうだ。


「被害者は横山佳代子。ヒンデンブルグ町一丁目に住む28才。スウィンドル生命保険に勤めていた女性です。ようするに生保レディってやつですね」


「生保レディ? ……ああ、保険に加入すればSEXさせてくれる女たちだな」


 ちげえよ、デブ! エロビデオの見すぎだってば。


「そうです」


 こ、このバカ警部補!


 二人に対して思わず声に出しそうになったけど、邪魔したくなかったから、ぐっと堪えた。


「でも、私もつい最近、生命保険に加入してるんですが、担当者はSEXさせてくれなかったんですよ」


「詐欺だな」


「まったくですよ。世の中どうなってるんでしょうね」


「カオスだな」


 聞いてて頭が痛くなりそうだったので、本題にもどさせた。


 改めて総太おじさんが事件のあらましを話しはじめた。


「死亡推定時刻はは七月一日の夜19時から22時にかけて。死因は出血多量。腹部を何度も何度も刺されています。凶器は刃渡り15センチの刃物と断定。まぁ、おそらく包丁かと」


「何度も何度もねえ……。怨恨か」


 短く、太い腕で腕組みをする百次郎くん。意外にも沈痛な面持ち。


「その線で調べています。なんせ、最初の一刺しが致命傷になっています。即死に近かったんじゃないかと。そのうえで何度も何度も刺してますからね。もちろん、金品等が持ち去られた形跡もありませんでした。……ですが、被害者に殺意を抱くほどの人間は特に見つかっていません」


「被害者の写真はあるか?」


「こちらです」


 総太おじさんは持っていた鞄からファイルを取り出し、百次郎くんに渡した。


 かなりの枚数の写真がファイリングされているようだ。僕もついつい覗き込んだ。


「うわぁ……」


 人間の体から、こんなにもいっぱいの血が出るの?


 思わず目を背けてしまった。


 見なけりゃ良かった。


 後悔した。きっと今夜は怖くて眠れない。ママが遅番だから、今日は一人でお留守番なのに……。


「目立った男関係もなくて……。目撃者もいないので、はっきりいって容疑者すらいない状態なんです」


「そりゃ男関係は出てこないだろ」


「え?」


「この女は同性愛者だからな」


 さらりと言ってのける百次郎くん。


 僕は思わず聞いた。


「同性愛……レズってこと? 根拠はあるの?」


「髪が短くてスッピンじゃねえか。しかも貧乳」


「……亡くなった人に対して、偏見はやめなよ」


「偏見じゃねえ。プロファイリングだ。プロファイリングを使えば、一目瞭然だ」


「その理屈で言えば、世の中の大多数の女性がレズってことになっちゃうじゃないか。こういうのは、ボーイッシュだとかいうんだよ」


「ふん。それ以外にも理由はあるぜ」


「なにさ」


「服装だ」


「服装?」


「見ろよ、この写真。だっせえだろ」


 百次郎くんは、ファイルの被害者の生前の写真が貼られているページを開いて見せつけてきた。


 確かに、まあ、なんというか、独特のセンスというか……良く言えば個性的。……ようするにダサい。


「服がダサいとレズだとでも言うの?」


「そうだ。レズはだっせえんだ。特にタチ。オナベほどじゃねえがだっせえんだ。レズ確定だ」


「完璧すぎます!」


 感心しながら、必死にメモをとる警部補。


「偏見にも程があるよ……」


「さっきから偏見偏見ってうるせえなあ。この女がレズじゃねえって言うんだったら、80年代の女子プロレスラーの存在そのものを全否定することになるぞ、てめえ」


「だから、それこそが偏見なんだってば」


「だったら、もっと決定的な証拠を教えてやるよ。……この写真の被害者の指先を見てみろよ」


 ユウキは百次郎からファイルを受け取った。おそるおそる覗き込む。部位ごとにアップになっている写真がある。言われたとおり、そのうちの被害者の指先が大きく写し出されているページを見てみた。


 だけど、百次郎くんの言わんとしていることがさっぱり分からない。
 僕の後ろからファイルを覗き込んでいた総太おじさんが驚きの声をあげた。


「こ、これは……!」

 

 

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