CASE1-(8)

「犯人は二十代前半の若い男。下半身に著しいコンプレックスを抱いている」

 


「コンプレックス?」


「そうだ。……レズに恨みを持っているということは、女を横取りされた以外に絶対にありえない。横取りされるには理由がある。その犯人が女を性的に満足させていなかったということ。必然的に導かれる答え……そう、チンチンの小さいやつを捜せばいいだけの話。そいつが犯人だ!」


「なるほど、そうか!!」


 総太おじさんははよほど関心したのか、そう言って膝を叩いた。


「そうだ。更に絞らせてもらえば、チンチンが小さいくせに前戯もろくにしないやつだ」


「なるほどぉ、だから若い男だと」


「いわゆるクズだ」


 僕はこの二人に対して恐怖すら感じた。


 もはや短絡的とか偏見どころの騒ぎじゃない。思わず口を挟んでしまった。


「なるほどじゃないよ。二人とも、自分が何を言ってるかわかってるの!?」


「お前は黙ってろ!」


「そうだ、ユウキ。邪魔しないでくれ。もうすぐ事件の真相に迫れそうなんだ」


「……わかったよ。じゃあ、そんなプロファイリングが当たっているかどうかはさておき、チンチンの小さそうな人っていうのはどうやって捜すつもりなのさ」


「簡単だろうが。人間というのは、コンプレックスのある箇所を無意識に隠すもんだ。ということは、チンチンにコンプレックスを持っている人間というのは、無意識のうちにチンチンを隠していることにる。……ようするに、ズボンやパンツをはいてチンチンを隠している馬鹿野郎を捜せばいいんだよ」


「そのとおり!」


 馬鹿はどっちなの……。


「世界中の男のほとんどだよ。っていうか、その理屈だと、チンチンに自信のある人は出して外を歩いているってことになるよ」


「違うのか?」


「見たことあるの?」


「むう。まあ、東洋人ではなかなかいないだろうな……じゃあ、鼻の小さいやつを捜せ。プロファイラーとして言わせていただければ、そいつこそがチンチンが小さい男――つまり犯人だ」


「くだらない! 鼻の大きさがチンチンの大きさに関係してるって言いたいの? 今どきそんな描写してるのは岩谷テンホーの四コマ漫画ぐらいだよ!」 


 ユウキは吐き捨てるように言った。

 

「くだらねえだと!? 今度は、岩谷テンホー先生を馬鹿にするのかよ!!」


 そう叫んだと思ったら、百次郎くんは僕の顔面目掛けてフックを放ってきた。


 もちろん簡単に避けられた。


 しかしながら、そのフックを放った反動を利用し、百次郎くんは首を、いや、上半身全体を振りはじめた。まるで数字の「8」を横にしたような軌道で。そして、さらにその反動を利用し、左右のフックを僕めがけて交互に放った。


 そう。ご存知、デンプシー・ロールだ。


 反動を利用しているが故、今までのスローすぎる百次郎くんの攻撃とは思えないほどに高速なる動きであった。


 しかしながら、偶然、過去に読んだボクシング漫画によって、動きが規則正しすぎるというデンプシー・ロールの弱点を熟知していた僕。ポケットに両手を突っ込んだまま、そのすべてをウェービングのみで避けきった。


 怒りが沸点へと達したのか、百次郎くんは絶叫した。


「黙って殴られやがれ!!」


「いやだよ」


「鼻の小さいやつが駄目だというのなら、その辺にいる男のチンチンを片っ端からチェックするしかねえんだぞ!!」


「そもそもチンチンの小さい人を犯人だと思ってる時点でおかしいんだよ」


「どこがおかしいんだ!!」


「説明しないとわからないの!?」


「わからねえな!」


「チンチンが小さいと犯人だというのなら、小学生の男の子はみんな容疑者じゃないか」


「だったら小学生全員ひっとらえりゃいいだけだろうが!!」


「じゃあ百次郎くんが最重要容疑者だね!」


「無茶苦茶だな、お前」


「無茶苦茶は百次郎くんだよ!」

 

「俺様のは小さいと言うんじゃない! プリティと言うんだ!!」


「言い方を変えただけじゃないか!」


「まあまあ、ふたりとも」


 総太おじさんが、やれやれといった感じで止めに入ってきた。百次郎くんの言うことを妄信しているこの男が元凶でもあるのに、この態度は……!


「ふん!!」


 百次郎くんは、プイと顔を背けた。


 僕は総太おじさんに言った。


「はっきりと言うけど、百次郎くんが言っていることはプロファイリングでもなんでもなくて、〝偏見〟であり〝決めつけ〟でしかないんだよ! いや、もう偏見って言葉を使うことすらおこがましいよ! それをこともあろうに刑事である総太おじさんが信じきっちゃうなんて、どうかしてるよ」


 必死に総太おじさんを説得するユウキ。


 総太おじさんは優しい笑顔で言った。


「ユウキ……。お前が言いたいこともわかる。でもこれは殺人事件なんだ。俺たちは必死で捜査しているが、実際に犯人は捕まっていない。少しでも可能性があるものを追いかけたいんだ」


 な、なにを……。


 まるで僕が変なことを言っていて、それを優しく諭すかのように……。


「今の僕と百次郎くんのやりとりをちゃんと聞いてた?」


「ああ。だからこそ言ってるんだ。お前も先生に完全に論破されたことだし、いい加減プロファイリングを認めなさい」


 駄目だな、この人。


「もう好きにすれば……」


 僕は二人に背を向けた。


 正気を維持するには、もうこの場を離れるしかない。そもそもこの公園についてきてしまったこと自体が間違いだった。


「なんだよ、帰るのかよ。せっかく連れてきてやったってのによ。へっ。帰りたいなら帰りやがれ!」


「そうだ! 帰れ帰れ!」


 こ、こいつ……!


 実の伯父であるにも関わらず、百次郎くんと一緒になって公園から追い出そうとするかのようにシッシッと手を振る総太おじさんに対し、僕は軽く殺意を覚えた。


 でも、ここで帰っていいものだろうか。この二人の考えを改めさせなくていいのだろうか。それによって、誤認逮捕が増えてしまうのではないだろうか。冤罪だらけになってしまうのではないだろうか。


 そんなことを一瞬だけ考えたけど、無意味だと思ってやめて帰ることにした。どうせ、こんなことで犯人が捕まるはずないし。


「へっへっへ! 数日後の新聞を楽しみにしてな!」


 そんな百次郎くんの声を無視して僕は歩き始めた。


「……きっと、こう載ってるぜ。ある一人の少年の活躍で犯人が逮捕されたってな!」

 


 そのとおりになった。

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